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第288話 

修はじっと若子を見つめ、しばらく何も言葉が出なかった。

若子もそれ以上は何も言わず、背を向けて去っていった。

彼女は本当に行ってしまい、修は引き止めなかった。

こうしていても何の意味があるのだろうと、彼自身も気づいていた。彼らはすでに離婚し、そして彼は桜井雅子と結婚することになっているのだから。

しかし、若子が去った後も、修は雅子に電話をかけることはなく、ただベッドに座ったままぼんやりとしていた。

彼は昨夜、若子が使った枕を手に取り、胸に抱きしめ、その香りをそっと嗅いでいた。

その頃、若子は車で自宅に戻っていた。

しかし、遠藤西也からは依然として返事がなかった。

彼にメッセージを送ってから、すでに二時間以上が経っていた。

普段はあまり迷信深くない彼女だったが、この広い世界にはやはり不思議なこともあると感じずにはいられず、心に少しばかりの畏敬の念が芽生えた。

あの夢は本当に現実のように鮮明で、思い出すたびに心がざわついてきた彼女は、ついに西也に電話をかけることにした。

しかし、電話の向こう側からはなかなか応答がなく、

やがて音声メッセージが流れてきた:【おかけになった番号は、ただいま応答できません。しばらくしてからおかけ直しください】

電話は繋がっていたが、彼は出ることもなく、また直接切られることもなかった。

若子の心はさらにざわめいた。

まさか本当に何かあったのではないか?

松本若子はあれこれ考えた末に、遠藤花に電話をかけることにした。

電話帳を確認していると、意外なことに、誰かが今朝彼女に電話をかけていたのを見つけた。

それは今朝の6時頃で、通話履歴には2分弱の通話時間が記録されていた。

もしかして、修が彼女のスマホを勝手に取って電話に出たのに、何も言わなかったのか?

若子は疑問に思い、その番号にかけ直した。

十数秒後、相手が電話に出た。

「もしもし、こんにちは」と若子が声をかけた。「今日、私に電話をくれましたか?」

「若子、私よ、遠藤花よ」

「花だったのね。通話履歴を見たら、今朝誰かから電話があったみたいで、気づかなかったの」

「今朝、確かにかけたわ。でも、あなたの旦那さんが出て、なんだかとても不機嫌そうだったわよ」

若子の表情が少し固まった。

どうやら修が彼女の電話に出たのに、一言も知らせてくれなかったらし
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